2021.03.29

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COVID-19が永遠に収束しない場合、タイ経済に何が起きるか?

COVID-19が永遠に収束しない場合、タイ経済に何が起きるか?

 

 

2020年3月21日にタイは非常事態宣言が発令してからちょうど1年になりますが、タイの非常事態宣言は、これまで11回の延長がなされ、未だ非常事態宣言下にあります。特に2020年末にバンコク近郊で新たな感染クラスターが突然発見されたことで、タイ経済の展望は振り出しに戻ってしまった感は否めません。

バンコク中心地にオフィスを構える弊社の周りにあるホテルの多くは休業状態にあり、大型ショッピングモールのテナントも退店してシャッターを下ろしているところも多くあります。3月になって飲食店でのアルコール提供が可能になったこともあり、客足が戻って来たものの観光客の受入れをしていない現状では、パンデミック以前にはほど遠い状況のようでもあります。タイ政府によりますと、10月には海外からの入国の門戸を開く計画のようですが、COVID-19の第3波、第4波の危険性もあり不透明な状況であります。

はたして、いつまでこの状況が続くのか見通しが立たない中、タイのアユタヤ銀行のKrungsri Researchが「COVID-19が永遠に収束しない場合、タイ経済に何が起きるか?」というレポートを発表していましたので、一部をご紹介します。

レポートによりますと、タイにとってパンデミックを乗り切るための最優先事項は、COVID-19感染拡大の制御と抑制であることは間違いないようです。つまり、たとえ結果としてこれまで安定した経済成長のけん引役となってきた産業(例えば観光産業)が深刻な連鎖反応に泣くことになったとしても、タイ政府は外国との往来を厳しく制限し、重要な地域を経済的にロックダウンする以外に選択肢は考えられないということのようです。その上、国内消費も一時的に制限されています。これらの政策が公衆衛生上、大きなメリットをもたらすことは間違いないにしても、経済に深刻な副作用が生じることは避けられません。

またCOVID-19感染症拡大の第1波と第2波がさまざまな産業に与えた影響の分析では、最大の打撃を受けているのが観光部門とサービス部門であるとしています。その中心は航空旅客輸送業、ホテル業、レストラン業となっています。また、これらの業種では 18~45%の賃金カットも行われているようです。そして、仮に2021 年の景気見通しが改善し、多くの企業が労働時間を再び延ばせる状態になったとしても2019年の賃金水準を下回ったままである可能性が高いとしています。

 

パンデミックがより長引く可能性があると考えられる理由として次の2つを挙げています。

1、海外の教訓から、感染の波は容易に繰り返すことがわかってきている。

2、集団免疫は、集団感染または集団予防接種のいずれかによって形成される。

 

タイ当局は 2021年末までに国民のほぼ半数がワクチン接種を完了することを予定していますが、新型コロナウイルスの変異株が自然発生した場合にはワクチンの有効性が下がる可能性があると見ています。つまり感染拡大の波が襲ってくる危険性がいつまでも続き、COVID-19を根絶できない場合、タイの経済、産業、一般家庭に引き続き影響が及ぶことが考えられます。

そしてCOVID-19が永遠に収束しない場合、タイ経済の状況が変化する分野として以下の6つを挙げています。

 

1、政府の医療費負担率の引き上げの要望から、医療と公衆衛生への支出が増加

2、感染拡大を抑えるための施策と旅行の制限によって、展示会、スポーツイベント、コンサートなどを中心に経済活動が全体的に停滞。移動規制を厳格化する必要があるため、海外旅行も同様に大きな影響

3、病気予防のための支出を増やす必要があり、企業の経費も増加

4、生産性が低下。すでにパンデミックで労働生産性は約10%低下

5、企業は進化する顧客のニーズと課題に対処するためにデジタルテクノロジーの導入を加速。同時にパンデミックを生き残るために必要とされる働き方改革を促進するためのテクノロジーが注目。

6、資源(労働力、資本、原料)は、影響が深刻な産業から混乱が少ない産業へと移動。地域による影響の差においても、労働力の地理的再分配が加速。

パンデミックが収束しない場合、経済が健全な状態を取り戻すまでにかかる経済的コストは膨大になり、回復までの時間も相当長引くことが判明しています。また勝ち組になる産業と負け組になる産業も明確になって来ています。厳しいソーシャルディスタンス規制を課し、継続する必要もあるため、最も打撃を受ける産業は、観光、レストラン、旅客輸送に関連する産業になると思われます。一方、IT、通信、医療、エレクトロニクス産業はパンデミック以前の水準に戻りつつあるとみています。

また、経済活動が停滞するだけでなく、タイの世帯間にもともとあった格差がさらに深刻化して景気回復の可能性がますます遠のくことも示唆されています。しかし産業間の資源移動を容易にすれば問題の緩和につながるとも指摘しており、成長ポテンシャルの高い産業や企業に生産資源が再配分されるよう促す措置は、タイの景気回復を後押しする上で役立つと見ているようです。

タイ政府はパンデミックをきっかけに、明らかに過去の成功体験からの脱却を図ろうとしていることが伺えます。例えば、パンデミックの中でTech系スタートアップ企業が数多く生まれており、政府はそれを強力に支援しています。(「COVID-19の中で注目を集めるタイのスマートソリューション」参照)今後、デジタルエコノミー、スマートシティなどがキーワードになってくるような気がします。改めて「タイランド4.0」の意義とポリシーを理解しておく必要があるかもしれません。