2022.04.29

ICHI

「情報」と「つながり」で「幸せな長生き」の実現を

【J-Startup CEO Interview】
『情報』と『つながり』で『幸せな長生き』の実現を リクシス株式会社

近年、世界のあらゆる業界でリモート化やデジタル化が進み、国境をこえた企業間連携の価値や可能性はますます高まっています。その一方で、実際に協業するに値する信頼できる質の高い海外企業を探すのは、言語や文化の壁もありなかなかハードルが高いのではないでしょうか。

そのような場合におすすめしたいのが、「国のお墨付きを受けた企業から探す」という方法です。日本においては、経済産業省が2018年から「J-Startup」というスタートアップ企業支援プログラムをスタートしました。このプログラムでは約10,000社に及ぶ日本のスタートアップの中から、厳正な審査を通過した「国のお墨付き」の企業を「J-Startup」と名付けて選抜しています。
J-Startup企業一覧リンク

今回は、国から認められたJ-Startupのひとつである「株式会社リクシス」の創業者で代表取締役社長 CEOの佐々木裕子さんから話をうかがいました。

【世界に先行して超高齢社会に突入した日本】

2010年、日本は世界に大きく先駆けて65歳以上の高齢者の割合が「人口の21%」を超える「超高齢者会」を迎えました。このことは、多くの日本人にとって介護が当たり前の未来がまもなくやってくることを意味します。

リクシス株式会社は、人類が今まで経験したことのないこれからの時代で「幸せな長生き」を実現するために、ITやAIといった最先端のテクノロジーを駆使したビジネスを展開しています。

日本の人口構成の推移。第二次世界大戦後のベビーブームで生まれた世代を「団塊の世代」と呼ぶ。2025年には団塊の世代が高齢者となり、2050年に団塊の世代の子ども「団塊ジュニア」も高齢者入りをする。その結果、若者が多くの高齢者を支えなければならないというアンバランスな社会構図となる。

【創業のきっかけとなった「一枚の写真」】

もともと、企業の変革やダイバーシティ推進、女性活躍支援のビジネスに携わってきたという佐々木さん。とある出版パーティで、のちにリクシス社の共同創業者となる酒井穣さんと出会い、「介護のことも一緒に取り組もう」と誘いを受けたそうです。

佐々木さんは「80歳をこえた父親が幸い元気だったこともあり、介護はいつか来ることと頭の中ではわかりつつも、危機感はそれほどありませんでした」と当時を振り返ります。

その佐々木さんがリクシス株式会社を創業する決定的なきっかけとなったのが、一枚のある男性の写真でした。そこに写っていたのは、70代で半身不随になった男性がねじり鉢巻で神輿を担ぐ姿。要介護になってからは引きこもりの時期もあったというその男性は、ケアのプロフェッショナルとの対話の中で、若い頃から祭好きで神輿を担いでいた頃の思い出を嬉しそうに話していたそうです。

「『それならば昔の仲間と神輿を一緒に担ぎましょう。そのためにまずハッピを着るところからリハビリを始めませんか』というヘルパーさん提案で彼はみるみる元気になったそうです。この写真はついにその男性が神輿を担いだときのものなのですが、それは素晴らしい顔をなさっていました」(佐々木さん)

佐々木さんはこの男性のエピソードによって介護についての固定概念が破れ「介護というのは不足した機能を補助するのではなく、その人の人生が輝くことを支えること」だと実感したのだそうです。

*創業のきっかけとなった男性の写真やエピソードとともに、「『人が長く生きることが当たり前の時代』の、新たなスタンダードを創っていきたい」という、佐々木さんのオモイが綴られている。(リクシス株式会社のウェブサイトより)

【介護の固定概念や忌避感を乗り越えるための「おせっかい」】

リクシス社の提供するサービスの一つに、仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT( Lyxis Care Assistant Tools )」があります。これは超高齢化社会のために必要なエイジングリテラシーを身につけられるクラウド型ソリューションのこと。すでに40社近い大企業との契約実績があり、延べ契約者数は10万人に迫る勢いとなっています。

なぜこれほどのニーズがあるのでしょうか。その背景には「親のために準備はしたいけれど、介護の話をするのが憚られる」「介護の知識がなく何をしたらいいかわからない」といった「心理的ハードルの高さ」があると、佐々木さんは話します。

「日本人の多くは、人口構成がピラミッド型だった時代のシステムや概念から抜けきれていません。そこから脱するためには、固定概念や忌避感を乗り越える『おせっかい」が必要だとリクシス社は考えました」(佐々木さん)

「LCAT」のゴールは、最終的にアクションを起こしてもらうこと。そのために「LCAT」では「今の時点で親と話すべきこと」「将来のサポート体制のために必要な貯蓄」といった基礎的なことから、「介護において素人である子どもが親の側でケアをするのは、実は親にも本人にも良くない」といった最新情報を提供します。こうすることで、介護に対する固定概念を破り、早いタイミングから介護への忌避感をもたずにプロに任せるための体制づくりを後押しする。ここまでの「おせっかい」をしてやっとアクションに繋がるのだといいます。

佐々木さんによると、このようなエイジングリテラシーの必要性をまずは企業の人事やマネジメント層に理解してもらうことが、次に社内メンバーへの展開していくのだそう。さらに使い勝手のよいUX設計を徹底し、ユーザーが心理ハードル低く利用でき、短時間で費用対効果を実感できる工夫を重ねています。

【リクシス社の独自データでシニア事業の創造支援を】

リクシス社の特筆すべきサービスのひとつに、シニア市場マーケティングリサーチ事業部があります。これは在宅で過ごすシニアやその家族が本当に必要とする商品・サービスを届けられるように、介護事業者と提携したマーケティング支援・リサーチサービスです。

日本はこれからシニアがマジョリティとなる超高齢社会を迎えるにもかかわらず、彼らの実際のニーズはネット調査でも把握することが難しく、世の中に出ていません。そこでリクシス社は、介護業界との繋がりを活かした日本最大のビジネスケアラーに関するデータを活用し、ケアを受けられているシニアの実態やその難しさを踏まえた上で企業が事業展開をするための支援をしています。

こうしたリクシス社のプラットフォームやビジネスモデルは将来的に海外でも活かすことができると佐々木さんは語ります。

「介護保険制度など国によって違いがあり、必要な情報のステークホルダーも国ごとに異なります。一方で、老いに関するのメカニズムや、親子間で介護の話題にすることへの忌避感、高齢化社会へ抱く危機感などは世界共通のはずです。介護領域で世界最大のファストグローイングマーケットである日本でまずモデル化し、ゆくゆくは海外の方々と一緒に横展開していきたいと考えています」(佐々木さん)

【新しいスタンダートとなる「社会変革プラットフォーム」創造へ】

佐々木さんは、先駆的なエイジテック企業として多くのディスカッションの場に招かれるうちに、他のエイジテック企業と自分たちの、良い意味での「違い」を案じたといいます。

「それは宗派・アプローチの違いのようなものでした。多くのエイジテック企業は、日本での大きなイシューである介護現場の『生産性の向上』や『人手不足の改善』のためにAIを活用しています。もちろん非常に重要な問題なので、超高齢社会の課題解決に、介護現場でのテクノロジー活用は必然だと思います。しかし、だからといってAIに自分の老後のケアプランまで本当につくられたいかというと、一人ひとりの人生の違いを考えると、実際には違うよな、というのも否めません。ですから、我々はAIやテックを、その人の歴史や生き方のような、もうちょっと“エモい”ところに入るために活かす役割を果たしていきたいと思います」(佐々木さん)

リクシスが扱うのは一人ひとりの人生に根ざしたヒューマンなデータであり、そうしたデータやテクノロジーを幸せな長生きのために活用していく。これが多くのエイジテック企業との違いといえるでしょう。

最後に佐々木さんは次のように締めくくりました。「リクシスが目指すのは、理屈はわかるけれど気持ちで動けない潜在的な社会課題にフォーカスをあてた、新たなスタンダートとなる『社会変革プラットフォーム』です」(佐々木さん)