2021.09.19

Bigbeat LIVE

タイで月間100万UUのサービスに成長させたRettyの秘訣

Bigbeat LIVE ASEAN Vol.1】
Rettyの海外進出~知人・友人ゼロのタイで、事業の立ち上げから月間100万UUのサービスに成長させた秘訣〜

日本最大級を誇る実名型グルメサービス「Retty
「Retty」のタイランド事業責任者である外村 璃絵さんが、友人・知人もいない初めてのタイで、月間100万ユニークユーザーが利用するまでに成長させたその奮闘ぶりをEN Innovation Co., Ltd.の宮田 直栄さん と共にお話しいただきました。

「え、私がタイで事業の立ち上げを!?」— 新卒2年目で海外進出担当に抜擢

2011年5月にWeb版としてスタートした「Retty」は、レストランやカフェ、ラーメン、あらゆる飲食店のクチコミを通じて、自分にぴったりのお店を見つけることができるサービス。単に検索するだけではなく、お気に入りのユーザーをフォローしてその人の食べているメニューをタイムラインで閲覧したり、地域やジャンルごとのトップユーザーを通じて自分にフィットするお店を見つけたり、会員同士の交流や新たなお店との出会いを促すユニークなグルメプラットフォームです。FacebookやLINE、Yahoo! IDとの連携による実名性も特徴で、信頼性の向上や健全なクチコミが多くのユーザーに支持されています。

Retty株式会社 タイランド事業責任者の外村さんは、そんなRettyに学生時代から関わることになり、大学を卒業した2016年にそのまま入社しました。当時の社員数は50人もいなかったそうです。
入社して1年目、外村さんはRettyアプリのプランナー兼コミュニティマネージャーとして日本で勤務。Rettyのサービス基盤ともいえるクチコミ投稿ユーザーとリアルに接し、アプリの改善ポイントやRettyに対する思い、フィードバックを受け取ることで、「Rettyのサービスコンセプトが自分の体にも染み込んできたように思いました」と外村さんは振り返ります。

そんな外村さんが、「市場調査を兼ねた事業責任者としてタイに行ってくれないか」と会社から打診を受けたのは2017年のことでした。もともと同社は日本以外の市場進出を想定しており、香港でも検証を行なっていました。そしてよりマーケットが広く、可能性が高く、Rettyにフィットした市場ということで、タイを選択。それまでタイには行ったこともなければ、友人・知人もいなかった外村さんでしたが、「突然打診されてびっくりしたのと同時に、『新しいことに挑戦するのが好きな私の性格や可能性を見きわめて抜擢してくれたのかな』と思いました」ということで、初めてのタイに行くことになったそうです。

外村さんと親交があり、実際にRettyの海外進出を支援したEN Innovation Co., Ltd.の宮田直栄さんが「初めての国に行くことに不安はありませんでしたか?」と尋ねると、外村さんは次のように答えました。
「多分よくわかっていなかったので、プレッシャーはあまり感じず、シンプルに『挑戦だな』というワクワク感の方が強かったです。ただ、タイ語も話せず、英語もそれほど得意ではなく、右も左もわからないままバンコクに着いて、ちょっと空を見上げました。どうしようかな、って」

知り合いをたどって現地の知人を増やすことからスタート

2017年、現地の言葉を話せないどころか、知人・友人も誰ひとりいなかったタイに初めて降り立った外村さん。宮田さんの「どこから事業をスタートしたのですか?」という問いに対し、「とにかく現地の人とコミュニケーションを取らないと何もわからないので、まずはコネクションを探すことに邁進しました」 と外村さんは答えました。

まずは社内の人にアンケートを取り、タイに知人や友人がいるかを聞いて接点を持ったり、タイに駐在経験のある学生時代の同級生に紹介してもらったり、そのつながりで日本語を勉強中のタイ人と会ってみたり……、積極的に現地での人脈づくりに励む一方、インスタグラムを見て、おいしそうな料理の写真や評判のお店をアップしているユーザーに直接DMを送って連絡を取ることもありました。

「怪しまれないように、『Rettyという日本のスタートアップ企業で働いていて、今度タイでもビジネスを展開しようと考えていますが、タイのことを教えていただけますか』と身元を明かして連絡してみました。自分でも『突然知らない人からDMが来たら怪しまれるだろうな』とも思いましたが、さすが『微笑みの国』といわれるように、タイの方々は優しくてオープンなマインドです。返事もきちんと返ってきますし、食という分野で新しい挑戦をしている私たちRettyを応援してくれて、そこからまたいろいろな人に紹介してもらったり、アプリをリリースする前のテストバージョンをインストールしてフィードバックをくれたり、無償でサポートしてくれるたくさんの方々とつながることができました」

こうして地域に少しずつRetty事業の根を下ろしていくなか、Rettyではタイでのサービスローンチに向け、iOS/Android版のアプリ開発を続けました。外村さんはこの間、日本とタイを往復していましたが、「出張ベースではなかなか進行しない」と判断。会社の承諾も得ずにコンドミニアムを借りて「体中にタイを染み込ませて事業を推進する自信を付けます!」と宣言し、駐在することになったそうです。日本本社から特に目標やゴールが示されていたわけではありませんが、Rettyが成長していく姿を日本で見ていた外村さんは、その事業成長に合わせて自分でKPIを設定し、それをタイチームの目標としました。

こうしたなか、初めての現地スタッフの採用も始めました。

初めての現地採用、こだわったのは「自分の足で事業を一緒に創造するパートナーを探すこと」

初めての海外進出で、企業がまず直面するのが現地採用に際しての疑問や課題です。「どんな人を採用したらいいのか」「どういう人材が適しているのか」「どういうチャネルで募集すればいいか」「どう採用するのか」など、悩みは尽きません。

外村さんの基本スタンスは、「わからないので、できるだけたくさんの方に会うしかない」というもの。そのうえで、「Rettyのことをどれだけ理解・共感してもらえるかがポイントでした」といいます。なぜなら2017年当時、Rettyはまだ正式に事業をスタートしたわけではなかったからです。アプリストアにぽつんとアプリだけがある状態で、オフィスも現地法人もありませんでした。

外村さんはスタートアップのイベントにも積極的に参加し、ツテをたどってこれはと思う方を紹介してもらいました。そのなかで出会ったタイ人が、現地採用第一号となったそうです。

「私より優秀な人で、『絶対この人と一緒にやりたい!』と思いました。ただ当時、その人は別の会社に勤めていて、お給料もかなり良かったんです。Rettyでは同じ給与は出せないし、もちろん福利厚生も整っていません。リスクを負って来てもらう必要があったのですが、オフィスがなかったので、自宅に招待して3時間くらい『Rettyはこういうサービスなんだ』『あなたと一緒に事業を立ち上げたい』と必死で説得したんです。口説き落とすのに4カ月はかかりましたが(笑)、それくらい素晴らしい人だったんです」

それだけ優秀な人が、まだ形も定まらないRettyに入社したのは、「私がとにかく熱意、熱量を伝えることに一所懸命だったからだと思います」と外村さんは話します。その3カ月後にまた新しい社員を採用することにしたのですが、それ以降外村さんは「できるだけ経験が浅く、これから一緒にカルチャーを創っていくことができる若い方、新卒の方を中心に採用活動を展開することを意識しました」といいます。「日本のサービスを現地で展開する」というより、「先入観がない現地のメンバーと一緒に、新しい事業を立ち上げる」という気持ちで、タイで事業を切り開いていきました。

増える現地採用、「モチベーション維持」と「成長性の説明」が大事な鍵

外村さんは事業の立ち上げに関し、どのように取り組んだのでしょうか。

まず取り組んだのは、Rettyの認知拡大です。タイでは誰もRettyのことを知らないなか、初の現地採用となったスタッフと共にアイディアを出し合い、できることはすべて試してみました。その際に留意したのは、すべてタイ語で発信・対応するということ。実際、Rettyのタイ版は日本語未対応ですし、タイのアプリとして開発されています。タイではFacebookが盛んなので、Facebookを通じてRettyの認知度を上げ、クチコミユーザーを集め、コミュニティを作っていきました。ここは外村さんの日本での経験が役に立ったそうです。

「最初に採用したタイ人のスタッフも私も『Rettyは絶対に良いサービスだからうまくいく』と信じていましたし、もともと食がテーマのサービスなので、ユーザーは国の違いは関係なく『食べることが好き』『おいしいものを分かち合いたい』という思いを共通して持っていました。最初は本当に数人単位のユーザーを集めてオフラインでイベントを開き、定期的にイベントを開催するようになり、改善してほしいポイントなどを共有してもらって、少しずつ大きくしていった感じです」

リリース後、アプリの使用具合についても「今日は10人使ってくれた」「今日は20人だった」と毎日カウントしていましたが、数カ月経つうちに「今日は何十人ものユーザーがキープしている」という状態になり、「今週は何十人がキープして、最終的に数百人になった」と、徐々に伸びていきました。こうしたCGM(Consumer Generated Media)型のサービスは、トップユーザーがどれだけ熱心に、そして楽しそうに使っているかによって、ミドルユーザー以降の活用度に影響を与えます。外村さんはRettyタイ版のトップユーザーに対し、イベントやミーティングを開催し、オリジナルグッズの提供や感謝を伝えることで、Rettyを楽しむ層を拡大させていきました。

「ネットサービスやアプリ事業だと、オフラインのイベントをそれほど重視していないケースもあると思います。ですが、リアルにトップユーザーと会い、話し、感謝を伝えることで、ユーザーにもより理解していただけるし、私たちもユーザーの思いをしっかり受け止めることができます。オフラインの触れ合いはとても重要だと思います」

こうしてサービスの裾野を拡大していくと同時に、外村さんはもう1つ取り組むことがありました。それは少しずつ増えた現地法人のスタッフのモチベーション維持です。

CGMのように、まずは先行してサービスを立ち上げ、ユーザーとクチコミを拡大し、認知とマーケットを広げることで収益を得るサービスは、どうしてもビジネスが軌道に乗るまで時間がかかります。Rettyの場合も、「クチコミ獲得フェーズ」「ユーザーグロースフェーズ」「収益フェーズ」という3つの波があり、収益化するまで3〜5年かかりました。

外村さんはこの成長フェーズを経験しているから理解できますが、タイの現地採用のスタッフは売上がまったく立たない状態が続き、不安になる人もいたようです。2018年にサービスを本格化して以来、2年間はそんな状態が続きました。外村さんは根気強く事業の特性と収益化のモデルを説明し続け、スタッフの不安払拭に努めました。

スタッフのなかには、その熱意に感化され、頑張る人も出てくれば、どこか醒めた目で「なんでそんなに頑張るの?」という人もいます。外村さんは仕事に対する各人の温度差を否定するようなことはせず、スタッフ1人ひとりと向き合い、仕事に対する思いや目指す生き方、ライフプランなどを丁寧にヒアリングし、その人に合った形でモチベーションを維持できるよう手助けしていったそうです。また、タイで形成されていたユーザーコミュニティの存在も大きく、「ユーザーと会話することで、みんながRettyを好きで楽しんでいることがわかり、改めてモチベーションアップになった人もいました」といいます。

そのような積み重ねで、2021年3月にRettyタイ版は月間100万UUを達成したのです。

国境は関係ない、その地域に事業をどこまで融合できるかが成功のポイント

国が違えばもちろん言語も違いますし、文化や風土、考え方も異なります。たとえば日本の場合、一般に忍耐強い人が多いので、一度気に入ったアプリやサービスは比較的使い続けますが、タイの場合は「飽きっぽい人が多い」といわれます。

外村さんは、「タイのマーケットは熱しやすく、冷めやすいと聞いていましたが、私個人としてはあまりそう思わないんです」といいます。それはあくまで一般論であって、タイの人すべてが飽きっぽいわけではありません。熱量の高いユーザーやスタッフに恵まれたことは、外村さんにとっても幸運といえますが、それは外村さんが熱意をもって自ら人脈を開拓し、ユーザーと接してきたからです。これに加えて「飽きられるということは、変化がないことが原因」と考え、仕事でも3カ月ごとにKPIを変えたり、改善案も「この先こういうことができると最高だね!」と上を目指すように促し、プロダクトと業務、それぞれが変化し続け、挑戦する意欲を誘発するように運営していきました。

「100万UUというのは大きい数字ですが、通過点でもあります。まだまだポテンシャルがある国なので、さらにサービスを伸ばすと同時に、その先の収益化に向けて取り組んでいきます」と意欲を見せます。

宮田さんが「タイに挑戦し、いまどのような思いがありますか」と尋ねると、外村さんは「とても良かったと思います」と述べ、その理由を「会社」「自分自身」の2つの視点からに答えました。

「会社として見ると、今回の取り組みを通じて『世界に挑戦している姿勢』を社内外にしっかり発信できたことで、社会的に大きなインパクトを与えることができたと思っています。日本から立ち上がったグルメサービスが、世界でどこまで伸びていけるかという挑戦であり、とても大きなことだと考えています。自分自身の視点で言えば、とにかく楽しいですし、新しいことにたくさん挑戦できることがとても良かったです。こうした大きい挑戦ができる環境に感謝していますし、極論をいえば『失敗しても何とかなる』という感じで楽しんで仕事ができているのがポイント ですね」

そして最後に、海外進出を考えている企業の方に向け、次のように話し、講演を締めくくりました。

「一番大切なのは、現地にどれだけ溶け込めるか、どれだけその国のことを理解できるかだと思うんです。そうすることで、自分たちがやりたいことと、現地のマーケットをどれだけ融合できるかが大切です。『日本のこのサービスを伸ばしたい』という自我が強すぎてもいけないですし、現地に合わせすぎて目指す方向性と全然違ったものになっても楽しくはないので、やはりその国に根を張り、現地の人たちと成長や感動を分かち合いながら進出を進めていくのが良いと思います」

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