【Bigbeat LIVE ASEAN Vol.2】
FoodTechでのPMFに奮闘する今を語る
FoodTechでのPMF(プロダクトマーケットフィット)に奮闘する今を語ると題したセッションでは、イシン株式会社の松浦道生氏がモデレーターとなり、TORETA ASIA PTE LTDの小島英恵氏とKAMEREO INTERNATIONAL PTE LTDの田中卓氏が登場し、ベトナムやシンガポールでのPMFに対する取り組みを語った。
シンガポールやベトナムでFoodTech事業を展開するTORETA ASIAとKAMEREO INTERNATIONAL
TORETA ASIAは、日本で2013年に創業した飲食店の予約管理サービスを提供する株式会社トレタの事業をアジアで展開している。TORETA ASIAでは、日本のサービスの中から、予約アプリやWebサービスをASEANで提供している。シンガポールへは2016年に進出し、翌2017年には台湾での展開を開始した。その他のASEAN地域にも、販売代理店などを通じてリモートでの活動を推進している。小島氏は、2015年にシンガポールに移住し、2016年のTORETA ASIA立ち上げと同時に入社して現在に至る。
TORETAの基本サービスは、紙で管理していた予約や顧客管理をクラウドで提供するもの。その特長について小島氏は「オーバーブッキングなどの間違いを減らしたり、空席情報をリアルタイムで提供し満席率を向上させ、顧客データも蓄積できます」と話す。さらに「外部のシステムと連携して、いろんなSNSに情報を公開できます。そして、POSと連携してお客様のレシート情報を蓄積するなど、予約と顧客情報を一元管理できるシステムです」と補足する。
B2Bのオンライングロッサリーのコマースを展開するKAMEREO INTERNATIONALは、ベトナムのホーチミンを拠点に田中卓氏が2018年に起業したFoodTech起業。田中氏は新卒で証券会社に入社し、約3年後の2015年にベトナムへ移住した。当時は、Pizza 4P’sという小さなピザ店でCOOとして働き、同店の事業拡大に伴い飲食店の購買に関する課題を解決する目的で、KAMEREO INTERNATIONALを2018年に起業した。現在は、野菜などを中心に肉や油など700ほどの商品を取り扱い、生産者から直買いした商品を顧客先まで配送するサービスを提供している。
海外でFoodTechのPMFに取り組んだ背景
両者の紹介を終えて、モデレーターの松浦氏によるインタビューがスタートした。
松浦
KAMEREO INTERNATIONALの卓さんがベトナムに移住したきっかけは、何だったのでしょうか。
田中
中学生のころから、飲食の仕事をやりたいと思っていました。家族や親族も食品系の仕事をしていたこともあり、外食の機会を通して、飲食店はすごく人を幸せにする仕事だと感じていました。そこで、新卒では給与も良い外資系の証券会社に勤めて、3年ほどで資金を貯めて日本で飲食店を開きたいと考えていたのです。しかし、日本での起業は難しいと思い、海外で延びている市場をリサーチしていたところ、たまたま日本人がベトナムで創業したPizza 4P’sのブログを発見し、メールがきっかけで現地を訪れる機会を得ました。そこで、当時のベトナムの活気を肌で感じて、2週間後には証券会社を退職してベトナムに飛び込みました。
松浦
TORETA ASIAの小島さんに伺います。日本のトレタのサービスを東南アジアにどのようにローカライズしたのでしょうか。
小島
海外では、リリースするサービスを制限しました。最初はアプリ版のみをリリースしました。サービスの内容は日本と差はないのですが、優先順位は国によって違いが出るので、どこから手をつけて、どのくらい開発リソースを割り当てるかを考えました。当初は、日本から来た開発チームと一緒に飲食店を訪問して、現地のニーズなどを調査しながら、順番にリリースしていきました。
松浦
プロフィールを拝見すると、シンガポールに移住してすぐにTORETA ASIAで働かれたようですが、ほぼ新卒で入社したのでしょうか。
小島
シンガポールに移住した当初は、現地の飲食店で働いていました。TORETA ASIAが設立されるときに、飲食店の経験者がいた方がいいという判断から、声をかけてもらいました。
松浦
ローカライズについて、もう少し伺いたいのですが、日本と海外でどのような体制で開発されたのでしょうか。
小島
ベースのサービスは日本で開発し、APIなどで対応できる部分は、現地で対応しています。
松浦
現在までの実績はどのような状況でしょうか。
小島
展開している国は、シンガポール、台湾、タイ、マレーシア、香港などです。ただ、競合は多いです。シンガポールなどは、システムのベンチャーが参入しやすいので、2016年当時は類似したサービスが一気に入ってきて、半年ほどでレッドオーシャンになりました。そうした状況を改善したのは、競合するサービスとの連携を高めて、共存できるシステムへと発展させたことでした。他のサービスの予約情報もトレタで一元管理できるようにしたことで、低迷しかけていた業績も向上しました。
松浦
成功に至るまでに、どのように現地のニーズを見つけたのでしょうか。
小島
当時は、4社ほど競合がいる中で、他社は当社の機能を模倣して取り込んだりしていました。当社では、競合するのではなく、他社のサービスもすべて取り込んで、トレタのプラットフォームに乗せてしまったら、共存できるのではないか、と考えたのです。
松浦
KAMEREO INTERNATIONALの卓さんは、トレタのサービスはご存知でしたか。
田中
昔から知っていました。Pizza 4P’s時代にTORETA ASIAのサービスを導入しました。業務も効率化されて、とてもありがたかった印象があります。
松浦
他の競合するサービスは検討しなかったのですか。
田中
当時のベトナムは予約して飲食店に行く人が少なく、競合するサービスもなかったので、TORETA ASIAのサービスだけで検討しました。
FoodTech成功の鍵は国ごとの違いの把握と柔軟なピボット
松浦
FoodTechを提供していく上で、国による違いはありますか。
小島
すごくあります。システムが一番進んでいるのは、断然シンガポールです。モバイルオーダーなども、大手企業はもともと使っていたり、今では数え切れないくらい、いろいろな国からいろいろなシステムが参入しています。小さな企業とか、クラウドベースで使えるサービスも増えています。それと、メディアが多いです。メディアに付随する予約システムも普及していました。
松浦
現在のサービスに至るまでに、どのくらいピボットされたのでしょうか。
田中
大きなピボットは一つです。ただ、シャットダウンしたサービスを含めると、失敗の数はいくつかあります。
松浦
ピボットに至るまでの変遷を教えてもらえますか。
田中
起業した当初は、既存のサプライヤーとバイヤーをオンラインでつなげて、受発注できるシステムを開発しました。日本でも同様なサービスを展開している事例があったので、ベトナムでも可能ではないかと考えました。しかし、日本での成功例では、大手のサプライヤーや飲食店が大口の契約へと発展するネットワーク効果によるものが多く、ベトナムでは飲食の業界が未成熟なので、そうした効果は期待できませんでした。加えて、ベトナムの人件費が安いので、SaaS型のサービスを提供しても、コスト効果につながらない、という課題もありました。それでも、サービスは伸びていました。ただ一方で、バイヤーがオーダーしてもデリバリーされないとか、オーダーそのものを受注しない、という問題が発生しました。それならば、デリバリーそのものを自分たちで提供した方がいいのではないか、と考えて卸の事業を立ち上げたのです。
日本と同じことをベトナムでやっても、産業構造とか成熟度が違うので、うまくいかないことも多いです。それと、当初はWeb版でスタートしたのですが、利用者からは「何でアプリないの?」という問い合わせが多く、アプリ版を提供してから需要が伸びました。
松浦
ベトナムでの独立のきっかけは、Pizza 4P’sでの経験だったのでしょうか。
田中
もともと、2~3年で独立する前提でPizza 4P’sに入りました。はじめはレストランを開こうと思っていたのですが、それよりも、レストランを助けるようなビジネスを提供した方が面白いし、大きな事業になると感じたのです。
松浦
ピボットしてビジネスの手応えは感じていますか。
田中
ユーザーさんがどんな価値を感じて、僕らのサービスを使ってくれているのかが、明確になりました。お客さまも順調に増えています。
国によるサービスの違いや心がける取り組みとは
松浦
TORETA ASIAの小島さんに伺いますが、トレタのサービスは国によって変えていますか。
小島
メインとなる予約顧客の管理に、トレタマネージャーというWebサイト、Web予約システムという3つのサービスは、どの国も同じです。その他のプラス機能は、シンガポールにしかないメディア連携やデポジット機能とか、台湾にしかないもの、といった違いはあります。機能を追加するかどうかの判断は、開発コストを回収できるかどうかです。現在は、コロナの状況なので、他の国への機能追加は、見合わせています。
松浦
現地にフィットするサービスや価格はどのように決めていますか。
小島
日本の価格をベースにしています。ただ、シンガポールでは10回くらい価格変更しています。現在でも、売上と成約率とコストのバランスを考えて、効率が良いポイントを探しながら、どこの国でも現地に適した価格を決めています。競合の価格も意識しますが、自分たちのポジションを見極めて、差別化要因や優位性を考えて、つけたい価格を優先しています。
松浦
ビジネスで心がけていることはなんでしょうか。
小島
連絡が来たら必ず5分以内に返信するようにしています。質問しても何日も答えがない相手よりも、連絡したら必ず返信が来る相手の方が、信頼されると思います。飲食店の方々は、システムには詳しくないので、利用には不安があると思います。そうした問い合わせに対して、不安が無いように、日々の業務の中に取り入れてもらえるようにサポートすることを心がけています。
松浦
ピボットするときに、どんなことを考えたのでしょう。
田中
最小のシステムでローンチして、実際にお客さまに使っていただかないと、真のフィードバックが得られないと思います。ヒアリングの段階では評価が高くても、実際にローンチすると使ってもらえない機能とか、よくあると思います。また、飲食店では意思決定者とサービスを使う人が違うケースが多いです。例えば、社長の評価が良くて導入されても、現場のアルバイトが使わない例もあります。
松浦
ライバルに勝ちきるための秘訣はありますか。
田中
新興国では、当たり前のことを当たり前にやることが、一番大事だと思います。僕らが日本で当たり前だと思っていることが、現地ではまだまだできているライバルは少ないです。ただ、商品の価値は使ってもらうまでわからないので、単純に価格で比較されてしまう顧客に、どのようにアプローチするかは課題です。
松浦
2~3年後の中期的なビジネスのビジョンは、どのように考えていますか。
小島
飲食店のITサービスという軸はぶらさずに、サービスの幅を広げていきたいと思っています。日本のトレタが、新しくモバイルオーダーのサービスをリリースしました。新サービスは既存のサービスと比べて、動画によるメニューの紹介がメインなので、グルメのYouTubeを見ているような感じで楽しめます。ASEANでは人件費が安いので、日本のようなコスト効果は伝わらないのですが、従業員のサービスレベルを均一にしたり、英語が苦手なスタッフでも対応できるような機能を提供することで、需要を広げていけたらと考えています。
田中
現在はホーチミンが中心ですが、将来的にはハノイに広げたり、倉庫のネットワークを増やしたり、飲食店だけではなくスーパーマーケットや小売店などの顧客開拓も考えています。また、きちんとしたチーム作りを通して、コロナ後の世界に備えていきます。
現在は、ベトナムでの5段階のコロナ対策に合わせて、何をするべきか明示して、各レベルに合わせてチームとして何をするか、クリアに共有するように心がけています。