日本有数の産業である製造業。その調達領域で、デジタルを活用したイノベーションを次々に起こして注目を集めるスタートアップ企業があります。それが「キャディ株式会社」です。
キャディ社は、2017年11月の創業から現在までに既に日本に複数の支社と物流拠点をもち、2022年3月にはベトナムでも現地法人を立ち上げるなど、サービスの提供エリアをASEANにまで広げはじめています。キャディ社では、どのような想いから製造業の調達領域の事業を立ち上げ、どのようなカルチャーを大切にしているのでしょうか。創業初期からのメンバーであり、ベトナム現地法人でASEANでの事業展開に携わる後藤陸さんからお話をうかがいました。
「調達改革は経営改革」
キャディ社では「調達改革は経営改革である」と考えています。その理由の一つに、製造業の生産高のうち「調達領域」が占めるインパクトがあります。日本国内の製造業の生産高は180兆円に及び、そのうち調達領域は120兆円と最も大きな割合を占めています。
また、製造業における「設計」「調達」「製造」「販売」という工程のうち、デジタルを活用したイノベーションが100年以上なされていない唯一の領域が「調達」であることも、調達改革が必要な理由の一つです。「設計」ではCAD/CAEなどの活用、「製造」では自動化やロボット化、販売ではAIやビッグデータの活用などにより、デジタル化が実現している一方、調達領域は100年以上も従来からの構造をひきずったままでした。
後藤さんによると、日本で調達領域での変化が進まなかった大きな要因には、サプライヤー側と調達側による「下請けピラミッド構造」が理由の1つであるといいます。
部品を製造するサプライヤー側のほとんどは従業員が9名以下という零細企業で、人数も限られるため、強みを発揮できる製造部品も限られます。そのため、特定の調達側に売上を依存するケースが多く、売上や取引先との関係維持のために、自社で製造が難しい部品の受注までも一手に請け負わざるを得ないケースも少なくありません。そして自社で製造できない部品をさらに別のサプライヤーに発注せざるを得なくなってしまう。このような受発注構造が「下請けピラミッド構造」です。
調達側としても、本来であれば強みのあるサプライヤーに部品ごとで個別に発注をかけるのが理想です。しかし、日本ではサプライヤー側の多くが零細企業であることから、工場ごとの強みが非常に細分化されており、その情報が一元化されていないブラックボックス状態となっていました。とりわけ、電車や飛行機のように小ロットでありながら数万単位の部品を要する、いわゆる「少量多品種」の調達側にとっては、そもそも一つの部品あたりにかけられる工数が限られるため、調達の最適化まで手がまわらないという課題がありました。
「このような、製造業に長く続いている構造的な課題を仕組みで解決し、製造業に従事するプレイヤーひとりひとりが本来持っている力を最大限解放・発揮できるようにしたい。このような想いからキャディ社はうまれました」(後藤さん)
100年以上旧態依然だった「調達」領域でのDXを実現
キャディ社では、「モノづくり産業のポテンシャルを解放する(Unleash the potential of manufacturing) 」というミッションを掲げ、現在は、受発注プラットフォーム「CADDi」と図面データ活用クラウド「CADDi DRAWER」の運営と提供を主な軸とした課題解決支援をおこなっています。
「CADDi」は、キャディ社が産業機械メーカーやブランド・メーカーから図面情報を預かり、発注先の自動選定システムを通して品質・納期・価格が最も適合する協力加工会社を選定し、当社が最適なサプライチェーンを構築した上で検査、品質保証、納品まで担うサービスです。キャディ社がワンストップで責任を請け負うことで、これらの取引コストの削減が実現しています。
発注者である産業機械メーカーから図面を預かり、「図面解析」「原価計算」など、複数の要素をもとに協力加工会社を選定することで、QCD(Quality,Cost,Delivery)が最適な形での納品を可能にしている。
「CADDi DRAWER」は、サプライヤー側の「図面」にまつわる情報を自動で抜き出しデータベース化し検索できるクラウドサービスです。AIテクノロジーを駆使し、これまで活用できずにいた図面の新たな資産価値の創造に貢献しています。
ミッションの実現のためにモノづくり現場を重視するキャディのカルチャー
100年以上も旧態依然だった製造業の調達領域に風穴をあけるためには相当な困難がある中、なぜキャディ社はこのような変化を実現できたのでしょうか。その背景には、キャディ社のカルチャーが関係していました。
「キャディ社には、創設当初から『モノづくり産業のポテンシャルを解放する』というミッションやバリュー浸透のための投資を厭わないカルチャーがあります。また、思想的にも日本に閉じておらず、海外での事業を始める以前から企業文化の英語訳を作成するなど、グローバル展開を視野に入れた取り組みをつづけていました。採用においてもキャディのミッションへの共感さえあれば、国籍、性別、宗教も問わず、成果を挙げた人が認められるフラットな会社づくりをしており、現在では、ロシアやアメリカ、ベトナムやタイの方が一緒に働いています」(後藤さん)
こうしたミッションのために尽くすカルチャーは、サプライヤーである工場への徹底したコミットにもあらわれています。キャディ社では、サプライヤーの情報収集の際に必ず工場に足を運び、経営者との対話をおこないます。さらに工場の強みを引き出すために、所持する機械や対応可能な素材といった基礎情報から、取引実績や管理体制のQCDに至るまで、数千上にも及ぶ項目の情報収集をおこない、データベース化しています。
最近はあらゆることがオンライン化され、多くのビジネスでも非対面のコミュニケーションで済ませることが多い中、キャディ社ではなぜ工場の現場に足を運び、経営層との対話に重きをおいているのでしょうか。
「モノづくりをしているのは加工会社であり、オフィスにいても仕事は生まれないためです。私たちがいくらプラットフォームをつくっても、活用するのはステークホルダーである現場の方々です。製造業のポテンシャルを最大限に発揮するという共通の目標のために、我々がサプライヤー側の企業へ常駐し、その企業の社員と同じように朝から晩まで生活することもあります。キャディが創業以来つづけているこのようなカルチャーは、タイや他のASEANの企業に対しても変わることはありません」(後藤さん)
キャディ株式会社 製造支援本部 アライアンス推進部 部長 後藤陸さん。タイへの留学経験もある後藤さんは、「お客さんがいるのは地方。その地方のカルチャーを学ぶだけでなく住むことが大事」という理由から都市部ではなくコンケン大学を選択。
さらに留学中に、タイ人の本質を理解するため、出家をした過去を持つ。「それだけコミットしないと現場の本質は見えてこないと思っています」(後藤さん)
2030年までにグローバル1兆円の受発注プラットフォームを目指す
ASEANで実際に事業展開を進めている後藤さんによると、成長の勢いの著しいASEAN諸国では、製造業界構造のイノベーションに挑戦しようとするマインドセットが強い印象を持っているそうです。
「1〜2年という短い単位で見ると、サプライヤー側も今までの体制を一定維持できるとは思いますし、調達側にとっても、直ぐに改革が必要な状況ではないかもしれません。ただ、3年・5年先を見据えると、従来の構造ではいずれ立ち行かなくなってしまいます。コロナ禍を経てリモートや業務効率性がより重視されている中で、経営自体をキャディと対話をしながら見直したいというステークホルダーの方が、国内外問わず増えてきています」(後藤さん)
キャディ社では、2030年までにグローバル1兆円の受発注プラットフォームとなることを目標に、データをレバレッジした製造業ソリューション・プロバイダーとして、モノづくり産業にさらなる付加価値の創出を推進しています。ASEANでの事業拡大にも積極的で、すでに新規取引先の開拓や、現地法人の立ち上げが検討されています。
最後に、タイの皆さんへのメッセージをうかがいました。
「一番お伝えしたいのは『モノづくり産業のポテンシャル解放を一緒にやっていきましょう』ということです。タイは有数の製造業の国です。力や技術力がありながら言語の壁などによりこれまでグローバルな取引ができずにいたタイの皆さんと、未来を一緒に切り拓いていくパートナーでありたいと思っています。キャディのミッションやバリューに少しでも魅力を感じたれたら、ぜひコンタクトをとってください」(後藤さん)