【Change Your Business with KAIZEN】膨大な製作図面等をデータ化 -デジタルの力で仕事のあり方を変えよう
顧客企業が持つ膨大な製作図面をデータ化し、過去の知見の資産化を可能とした図面データ活用クラウド「CADDi Drawer」。これを開発・提供しているのが2017年に東京で創業したキャディ株式会社だ。22年からは海外展開も開始。ベトナム市場への参入に続いて、同年末にはタイ法人も設立した。両市場ともあまたの日系製造業が進出するなどモノづくりの盛んな土地。ところが、紙ベースの図面は使い終わるとそのままの状態で保管されるのが常だった。一方で、市場では効率化や自動化が求められ、人材難や後継者不足など課題も山積する。デジタルの力で仕事のあり方を変えよう。CADDi社の取り組みが始まっている。
無駄なコストや時間の浪費を解消
「図面探しに追われず、モノづくりに集中したいという声をベトナムでもタイでもよく耳にしてきた」と話すのは、両現地法人を束ねる「Head of APAC (Vietnam & Thailand)」の武居大介氏。紙の状態で保管された図面は何がどこにあるのかも情報共有されにくく、担当者の日本帰任や転職などにあっても引き継ぎがなされることはほとんどまれ。探し出したくても現地の倉庫まで赴かねばならず、しかも全てが手作業というのが実情だった。
このため過去の取引事例との照合が進まず、無駄にコストや時間が浪費されることもしばしば。本業そっちのけで汗をかき、過去案件を探し出すといったことも少なくなかった。これらの課題を一気に解決しようと提案されてきたのがCADDi Drawerだった。
過去の図面や取引の詳細が端末検索によってつまびらかになれば、それを参考に価格設定したり、より安価な原材料の調達ができたりもする。交渉もうまく進む。都度わざわざ時間を取って稟議を上げたり、上司にお伺いを立てたりする必要もない。日本の本社側にしても、オンライン回線を経由することで現地法人の発注や調達が適正かどうかも判断ができる。言語の壁を乗り越えて瞬時に行われることで、無駄な会議の開催や照会なども不必要となる。
デジタル図面は「大学受験の過去問題のようなもの」
タイでも昨今求められるようになったのが業務時間の短縮だ。ひと昔前まで設計や図面引きと言えば、長く時間のかかる作業だった。土曜日、日曜日の出勤は当たり前。それだけ職人が重宝された。職人は自分の頭の中に図面に関わる全てを記憶し、どんなことを聞いても正確に答えられる。まるでドラえもんのポケット。会社側も彼らに任せれば問題ないと、全幅の信頼を置いてきた。
ところが、時代が進み彼らが高齢化・定年を迎えるようになると新たな問題が持ち上がる。後継者難だ。週末の休みもないような生き方を現代の若者に求めるのは酷とされるようになる。加えて、ゆとりのある暮らしを追求する昨今の社会風潮。働き方改革。日本でもタイでも残業時間を減らそうという動きが広がっている。そうしなければ優秀な人材が集まりにくいという労働市場の要請もある。
機械やITに任せられるものは任せて、人は本来の業務に専念しようという考えが生まれてくるのは至極当たり前のことだった。少子化が進む現在、量より質の労働環境の実現は待ったなしの状況となっている。そのために必要なことは働く人一人一人のスキルアップ。データ化された過去の案件や図面がそのための良き教材となることは言うまでもない。「デジタル化した過去の設計図面は大学受験の際の過去問題のようなものだ」と武居氏は説明する。
AI見積クラウド「CADDi Quote」初お目見え
国際的な競争に勝ち残るためにも過去データのデジタル化は必要不可欠だ。例えば、破竹の勢いで新型車の投入を続ける中国の電気自動車(EV)メーカー。ここの研究・設計部門は3チームあり、それぞれが1日8時間、3交代で開発を続けている。つまり、24時間体制。通常の3倍にもなるリソースによって得られた成果は、3倍はおろか4倍、5倍にも。さすが人口14億人の巨大市場。スケールの違いには度肝を抜かれるばかりだ。
そんな彼らと正面からがっぷり四つで組み合い、競争を展開していくためには、こちらも体制を整えていかねばならない。とはいえ、日本もタイもすでに人口減にあり同じ人海戦術は採れない。そこで活躍するのが人工知能すなわちAIというわけだ。
CADDi社が新たに開発したAI見積クラウド「CADDi Quote(クオート)」はAIが過去データを元に図面を自動解析。類似品を製造する相見積先や実績価格などを候補として表示し、業務の効率化を手助けしてくれるアプリケーションだ。これにより人による手間が激減すると同時に、見積業務と調達活動の最適化が図られる。11月に開催されるDX展示会「DigiTech ASEAN Thailand」でタイ初お目見えされる計画だという。
「社名であるCADDiには、Computer Aided Design(コンピュータ支援設計)という意味ともう一つ、ゴルフでいう「キャディー」という意味も含んでいます」と武居氏。「数多くのシステムが導入後に現場で活用されぬままになっているように、ソフトウエア導入だけでは業務変革は実現できません。製造業とITの双方の知見のある我々がキャディとして伴走することで、顧客の業務改革を共同で推進できると考えています。」とも話す。顧客ファーストで業務の効率化を進める同社の次の一手を期待したい。