【Change Your Business with KAIZEN】タブレット一台で配筋検査と帳票作成が果たせるアプリ「Modely」 -はつり作業向け「Hatsuly」と合わせ大幅な省力化と省人化を実現
ビルや橋梁などのコンクリート製構造物の建築に欠かすことのできない鉄筋。地震の多い日本では厳しい設置基準が設けられ、施工時に法令で定められた配筋検査を受けなければならない。ところが、この検査、常に3~4人の作業員が動員され重労働で、しかも長時間。手間数も多く、測定した膨大なデータはあまねく帳票にまとめなければならず、これまた作業は一苦労。建設業界は残業の多い業界として知られてきた。そこに登場したのが3D配筋検査システム「Modely」だ。タブレットなどでデータを取得するだけで瞬時に計測と帳票作成が果たせるという優れものだ。
赤外線の反射光による測距技術LiDARを採用
Modelyを開発したのはDataLabs株式会社(東京都)。2020年7月設立の若いベンチャー企業。代表取締役CEOの田尻大介氏は、大学卒業後にJAXAに入社。人工衛星データの利用普及事業に従事したほか、ドローンを使った三次元計測事業を行う企業などを経て同社を設立した。同氏を支えるスタッフも画像処理の研究や財務・法務・会計など専門スキルを持った人物ばかり。将来性ある会社といえる。
赤外線の反射光を使って対象物までの距離や形状 などを計測する技術「LiDAR(Light Detection And Ranging)」を採用している。これにより得られた点群データを自社開発のアルゴリズムが3次元モデルに解析・自動変換。検査項目の実測値を自動で帳票化するというのが基本的な仕組みだ。LiDAR機能が搭載されていれば、どんなスマートフォンやタブレットの端末でも作動する。Android機器の使用が少なくないのがタイ市場。機種は選ばないというのは嬉しい。
これにより、これまで炎天下の戸外などで時間をかけて行われていた配筋検査が極めて容易となった。時間も大幅に短縮。一人で作業することが可能となった。計測後に残っていた帳票作成といったもう一手間の間接業務も自動化が一気に進み、残業時間も大幅に短縮。同社が国土交通省監修の下行った現場実証等 によれば、Modely導入によって約4割のコスト削減と約8割の作業時間の縮小が実現されるという。労働力確保の悩みにも大きく資することは確実だ。
2024年9 月に発表された日本の国土交通大臣表彰制度で「活用促進技術」の一つに選定された。同省が行う工事成績評定において加点措置の対象となったことから、今後は導入が一気に進む公算だ。2024年2月には同省主催インフラDX大賞でもスタートアップ奨励賞を受賞するなどModelyをめぐる注目は内外で高まっている
クラウドシステムで発注者とデータ共有
Modelyの延長線上にあるもう一つの看板製品が、2023年10月に販売開始となった3Dインフラ補修検測システム「Hatsuly」だ。名称の由来となる「はつり」を行う断面修復工 とは、老朽化したコンクリート建造物の表面を削って内部鉄筋の 腐食を修繕したり補強したりするする作業。こちらも 厳しい基準と手続きが定められており、複数の作業員による戸外での重労働の原因となってきた。計測後の膨大な帳票作成作業にも有益で、いずれの省力化・省人化にも対応したのがHatsulyだった。
スマホやタブレットで取得したはつり箇所の3次元データを利用。ひび割れやその面積、はつりの深さや体積などを自動計算。さらには必要となるモルタル 量も算出して、帳票に落とし込むのが基本的な構造だ。3次元データや帳票はModelyと同様に発注者と共有することもでき、クラウドシステム上での検収完了が可能となる。あらゆる面で建設業務の効率化が図られている。
導入事例の一つ大手ゼネコンのケースでは、2人1組が最大5分も要していた断面修復の計測作業を、一人の作業でわずか数秒~30秒までに短縮。1200カ所にもおよぶ全作業工程で50時間以上の労働時間の節約を実現させたという。導入企業には名だたる著名な大手建設会社が連なっている。
タイのインフラ改修への貢献目指す
タイで道路や橋梁など社会インフラの建設が始まったのは工業化が進んだ1970年ごろから。半世紀が経過した現在は、広範囲で老朽化が進んでいると見られている。こうした中、取り壊して新たに建設するという「スクラップ&ビルド」で対応しようというのが、少し前までのタイ政府の基本姿勢だった。
ところが、莫大な予算の懸念や地球環境への配慮が求められるようになると、次第にベクトルはメンテナンスを施し、寿命を延長させる方向に。政府に加え多くの企業も大きく舵を切るようになった。こうした状況下で活躍されると期待されているのが、DataLabs社が開発したソフトウエアのModelyとHatsulyというわけだ。
11月のDX展示会「DigiTech ASEAN Thailand」では、こうした点をアピールしていく意向だ。「日本発の技術がタイのインフラ改修に貢献できればこんな嬉しいことはないし、その可能性は十分にあると考えている」と田尻CEO。その上で、「ただし、施工管理の基準や慣習などは国によって違いもあるだろうから、まずは対話に臨みたい。どんなことに関心があるのか。我々に足りないことは何かを把握して、業務にフィードバックしたい」と抱負を語った。