2024.11.14

ICHI

【Change Your Business with KAIZEN】セールスパーソンの片腕DXツール「UPWARD」 -「ここ立ち寄ったほうがいい」AIが提案も

昼夜を問わず顧客回りを続けるセールスパーソン。通い慣れた得意先がある一方で、不安がつきまとう初めての訪問先も。地図を片手に汗を拭き拭き、細い路地を行ったり来たり。1日に回るのは数十件。年間ともなれば数百件。いや、4桁に達することさえも。その全てを把握し、顧客情報まで頭に叩き込んでおくことはもはや常人では考えられないことだ。そんなセールスパーソンの片腕となるデジタルツールがあるのをご存じか。2016年に新たに創業した「UPWARD株式会社(UPWARD , Inc.)」(東京)が提供する訪問営業DXサービス「UPWARD」がそれ。どんな機能を持っているのか。

営業活動を最適化させるためのツール

「デジタル化がいくら進んだとしても、最後には必ず人でしかできない仕事が残る。そのうちの一つが『営業』だ」と話すのは、代表取締役社長を務める金木竜介CEO(Ryusuke Kaneki
Representative Director, President and CEO)。地理情報システム(GIS=Geographic Information System)に精通し、社長に就任した2016年から、GISと顧客関係管理(CRM=Customer Relationship Management)をクラウド上で高度に連携させたDXサービスUPWARD(アップワード)の販売を開始。これまで大手企業を中心に約400社までに急成長した。

 もともとはGISの専門企業だった。依頼のほとんどは受託開発業務。ところが、通信回線の速度と品質が3Gから4G、そして5Gへと大幅に性能アップ。さらには、あらゆるデジタル技術がインターネット上のクラウド空間と結びつく中、「今後のビジネスは、仮想空間上で作動するSaaS(Software as a Service)が主流になる」と金木氏。業務を全面的に見直すことを決断した。

 始まったのは、蓄積されてきた地図、位置情報に関わるノウハウと知見を、人が担う営業活動にリンクさせるという日本初の画期的な取り組み。元来、営業といえば足で稼ぐもの。外回りを担うセールスパーソンは、足が棒になるまで顧客宅を訪問し、深夜の帰社後に日報をまとめるスタイルが一般的とされた。これを根底から変えようという試みだった。「セールスパーソンには営業活動に専念してもらい、それを側面から支え最適化させるツールを作ろうと考えた」(金木氏)

商談内容はその場で音声入力

操作法は至ってシンプル。そして、さまざまな業種に適合できるようカスタマイズ性を高く持たせた。訪問先企業の基本的な情報の取り込みはネット上などから自動で行われ、地図や位置情報と結合。面倒な検索作業がセールスパーソンから一掃された。名刺情報などもスマートフォンのカメラで撮影。人工知能(AI)が自動、精緻に読み取って、瞬時にデータベース化する機能も持たせた。

 時間を要していた帰社後の日報作成作業も不要となった。商談の内容は、その場でセールスパーソンがスマートフォンから音声入力。これを自動で文章に書き換え保存することで、営業記録に加えることができるようにした。別の商用で近くまで来た時に、「ここへ立ち寄ったほうがいい」とAIがアナウンスしてくれる機能も標準装備される。

 大半のスマートフォンやタブレットに搭載ができ、機械に不慣れな人でも操作できるよう直感性も重視した。画面を順にタップしていけば、欲しい情報に瞬時にアクセス。もう、外部サイトに接続して、あれこれと探し回る面倒からも解放された。会社ではセールスパーソンの上司が、共有された商談結果を瞬時に把握。部下の帰りを待つ必要もなくなった。

 「営業活動に遊び感覚を採り入れて、少しでも気持ちを前向きにさせたい」と考える顧客企業には、地図アイコンのカスタマイズ化も推奨している。例えば、商談がまとまり、定期的な収入が見込める得意先企業のそれはダイヤモンドに。商談中で、将来の顧客となることが想定される企業のアイコンは玉手箱。そして、現在は難航しているものの、ライバルとの競争に勝利して顧客化したいと考える相手先は合戦のアイコンにという具合に。自由自在に変更できる点も面白い。

タイでは金融や伝統的小売業をターゲットに

2023年7月には、満を持しての海外展開を開始。アジア一円の拠点として選ばれたのがシンガポールだった。金木社長が与えたミッションは「1年以内に具体的な進出先を決める」というもの。検証を重ねて決定したのが、スマートフォンの普及率が98.8%というタイだった。「タイは日系企業も多く、企業活動が旺盛で営業活動も盛ん。スマートフォン慣れしている点も検討材料だった」と金木社長。直ちにモバイルアプリのタイ語化が進められた。

 タイでは、銀行、保険、債券回収といった顧客回り業務が依然として残っている金融市場から開拓を試みる。一方で、伝統的な小売店舗を抱える流通市場などにも関心を示す。掲げる目標は、30年までに海外での売上10億円。「不可能ではない」と金木社長はその将来性を指摘する。

その先の東南アジア諸国にも関心を示す。例えば、タイと地続きのマレーシアや域内人口最多のインドネシア。同様に伝統的小売店舗が多く、顧客営業が厳然と残っている地域だ。「東南アジアの人々はマニュアルに頼らないという特性も合わせ持つ。より直感的な仕様にするなど使い勝手のよい製品にバージョンアップして提供していきたい」とも金木社長は話す。